ProjectStory#7 敵でもライバルでもなく、仲間

ProjectStory#7 敵でもライバルでもなく、仲間

一大産地になるくらいがいい

BAAALLのレモンプロジェクトのメンバーと、とびしま柑橘倶楽部の皆さんが初めて集まったのは、2019年3月のこと。立川の「なかざと農園」で2度目の植樹が行われた日でした。広島から軽トラックにレモンの苗木を乗せ、車で12時間かけて東京へ来てくださった皆さんに、立川のレモンプロジェクトをどう考えられているのか、率直な質問をぶつけました。

胸元のレモンのロゴがトレードマークの秦さん

プロジェクトがはじまってから、心の隅でずっと少し心配していたこと。『立川での栽培には年月がかかり規模もまだわずかとはいえ、もし仮に立川での栽培が成功して、東京からの出荷ができるようになったとしたら、とびしま海道の農家さんに迷惑がかかるようなことはないのですか?』。そんな質問に対して、とびしま柑橘倶楽部の秦さんから返ってきたのは、『かけてください』という思いもよらぬ言葉でした。

『なぜなら、国産レモンはまだ全体の10%しかありません。30〜40%に伸ばすだけでも、今の3倍4倍の面積が必要になるので、こういう取り組みは絶対に必要だと思っているんです。色々なところで国産の優位性というのを出せば出すほど、国産レモンは伸びてくるはず。その中でも、生産方法も物語もすべてを作ってブランド化している僕たちは一番強いと考えているので、全然問題ないです。何なら90%国産にしたいくらいですから』

続いて、レモン農家の末岡さんはこう話してくださいました。

『うちから見たら、立川でレモンがしっかり実り始めても決して敵じゃない。仲間ですから。僕はまず相乗効果を考えます。とびしま海道の畑を今の状況のままで放っておいたら、5年10年に必ず荒地が増えてきます。立川でもプロジェクトを行っていることによって、とびしま海道でもきっと後継者が増えていくと思うんです』

『いい情報を発信してくれたり、手を繋いでくれたり、困ったときに助けてくれたり。お互いがそんな風に一緒にやっていけるのはすごく良いですよね。立川を一大産地にしてくだい』と、秦さん。国産レモンを介して繋がる2つのまちの間には、確かな絆が生まれています。

末岡さんの畑で収穫したレモンをその場で味わう
この世で一番フレッシュレモンは香りも格別

 

“立川でレモン”の可能性

実は、『立川に来たくなるような名産品を商店街で作れないか』という思いを持っていた立川市商店街振興組合連合会がレモンに辿り着いた経緯を、とびしま柑橘倶楽部側から見ると、もう一つのストーリーが隠されています。(商連ととびしま柑橘倶楽部の出会いをご紹介したストーリーはこちら
両者の出会いを運んできたのは、立川の商店街研究会がコンサルティングをお願いしていた方ですが、とびしま柑橘倶楽部の秦さんに初めて立川の取り組みを伝えたとき、意外なやり取りが交わされていました。

『立川の名物を作ろうとしてるんだけど、どう思う? と聞かれて、立川の名産と聞いていたウドは、6次産業化という意味ではちょっと難しいと思いますよと答えました(笑)。実は逆に僕の方から、レモンはできないですか? と聞いたんです。立川でレモンは作れないでしょうという反応だったんですが、いやできるかもしれないですよと。ちょうど広島県のサンドボックス事業でレモン栽培の実証実験をはじめていたので、実施場所に立川も加えちゃいましょうという話をしたんです』

立川では需要の高さや汎用性からレモンに期待を寄せていましたが、それとは全く別の文脈で、とびしま柑橘倶楽部の方からレモンという案が挙がってきていたのです。
当時から、様々な企業や地域と商品開発を手がけていた秦さん。何を素材にして取り組むかによって、プロジェクトの見え方や成果は全く違ってくると言います。例えば、ある別の地域では、希少価値が高く健康に効果のあるまだ無名の産品を素材にしようとしていましたが、誰にも知られていないものは誰も買わない。『そこから始めるのは大変ですよ、これじゃないんじゃないですか』と大きく方向を転換したのだと言います。
国産レモンの産地としてだけでなく、産品を活用した地域おこしの実績やプロデュースという意味でも、秦さんをはじめとするとびしま柑橘倶楽部の皆さんはとても力強いパートナーだったのです。

末岡さんも、6次産業化の相談で秦さんのもとを訪れた農家のお一人

 

この場所だからできる地域おこしとは

数年前から、レモンを中心とした柑橘で地域おこしを行っているとびしま海道ですが、当初は、すでにブランドとして存在していた「大町みかん」が良いのではという声が挙がっていたそう。しかし、そのまま食べるのが最も美味しいミカンは加工の必要がなく、6次産業化という観点からは扱いづらい柑橘でした。
そこで、秦さんがスポットライトを当てたのがレモン。90%が輸入品のため、これから畑を広げていくことができ、食品だけでなく雑貨などにも幅広く加工できます。有志で勉強会を開くと、レモンの産地として名高いイタリアでもまちおこしを行っている事例が見つかり、大きな後押しとなりました。国産レモンを使った地域おこしをはじめてから数年、国産レモンのブームが広がりはじめ、それまでは出荷できず余って捨てていたレモンが、今や常に品薄の状況になっています。

『今のような状況になる前、農家さんの収入源は農協がすべてでした。それが、とびしま海道が橋で繋がったことで、農協が引き取ってくれない柑橘を本州で僕がしているお菓子とパンのお店に持って来られるようになりました。とびしま海道の地域おこしの発端は、そこからはじめた物々交換なんです』

最初に秦さんのお店にやって来た方は、秦さんの出身地である豊島の農家さんだったそう。お店を本州に出したことで、島を捨てたような気持ちになり、地元を離れたことを心苦しく感じていた秦さんは、何か役に立てればと思ったのだと言います。そこで、自分で物を作ったりプロデュースをして製造委託、販売するという6次産業化を農家さんに知ってもらえるよう、届けられた柑橘とそれで作った商品の物々交換をはじめたのです。(とびしま海道の地域おこしのはじまりについてはこちら

とびしま海道には、レモンの産地であることに紐づいて、歴史や環境、農家さんをはじめとする人材・ノウハウなど非常に大きな資源があります。立川や、それぞれの地域にも、その場所ごとの特徴を活かした地域おこしの方法があるはずです。
『立川だと、レモンの苗木を3本植えただけでニュースになっちゃうんだからすごいですよね』と秦さんがおっしゃるように、例えば、都心に近くメディアの機動力が強いことも一つの特徴かもしれません。元気づけ面白く良くしていきたい対象が地域ではなく、企業や人になれば、特徴を探す視点もまた変わります。無限の掛け算でパートナーを作っていけるレモンプロジェクトの模索は、これからも続きます。

末岡さんが整備した畑には苗木を植樹するため多くの人が集まる
仲間として立川と繋がる約800km遠くのとびしま海道


Writing/國廣愛佳
Photo/寺島由里佳

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