プロフィール
坂根千里
一橋大学社会学部4年。3年前、国立で学生が運営する宿「ゲストハウスここたまや」を仲間とはじめる。傍ら、すぐ近くのスナックでチーママとしても働く。好きなアイドルは森高千里。
こんにちは。スナックの沼にハマってしまいました、坂根と申します。
継ぎたい理由、継げる理由
「来年からスナックを継ぎます！」と言うと、
自分なら二つの「どうして？」を問いたくなります。
一つ目は「どうして、スナックなんて物好きなことを？」ということ。
つまり、私を突き動かす動機について。
二つ目は「どうして、スナックなんてよくわからない道を？」ということ。
つまり、事業や自分自身の収入に関するリスクマネジメントはどうしているのか。
危なっかしく見える橋を進める自信は何なのかについて。
継ぎたい理由と、継げる理由。同じ理由でも異なります。
今回は、前者の“継ぎたい理由”について少しお話しさせてください。
理由1:私的な“部屋”に近い空間
まずシンプルに、スナックがとても好きです。
スナックにあるもの。お酒、流れる歌謡曲、アンティークでレトロな置物、小皿…に、私がときめいていることはもちろんのこと。
何より、ママの存在に惹かれています。
スナックは主として働く男性のためにデザインされた酒場です。
それでも、ママがその場の主導権を握っているという、絶妙なパワーバランスが面白い。
どんなものが置かれ、どんなBGMが流れるのか。
どんな常連さんが集まり、どんなお客さんを時には意図的に居づらくさせるのか。
どんな言葉を発し、どんな会話がそこで起きるのか。どんな会話はタブーなのか。
他の飲食店よりも、ママがそこの場をコントロールしていて、
プライベートな「部屋」の要素さえ感じる空間。
思えば、よく一人旅をしていた私は、シンプルで整ったホテルに泊まるより、
AIrbnb（民泊）を使って、誰かの部屋に泊まって旅をするのが好きでした。
そんな自分が誰かの部屋にお邪魔するようなスナックに惹かれているのは、
偶然ではないでしょう。
理由2:新しさに触れる、常連さんとの生きた会話
スナックで「新しさに触れる」と言うと、少し違和感がありますね。
しかし、家族でも友達でもない弱い繋がりの常連さんたちとの会話は、
予期しない返答やアイディアに溢れています。
検索のアルゴリズムでおすすめされた情報に触れることが多い自分。
「異種なもの」と出会うことがもはや新鮮になっているからなのかもしれません。
また、常連さんたちと近すぎない間柄だからこそ、つい悩み事を相談することもありました。
それでも暗く沈むことなく、まあ飲んで歌ってという軽い空間が
悩みを明るく照らし、救ってくれていました。
スナックに立ち始めてから二年半。
バイト先と言うより、自分にとって癒しの空間になっていたのです。
理由3:カウンターが10席ほどしかないスナックが生む価値
「なんか最近足が疲れちゃって」とママが笑いながらもよく言うようになった頃。
さらにコロナが重なり、スナックは営業が難しくなります。
ママは、お得意の人をのせるトーク術で「あなた継いでみない？」と、
私にそそのかすようになりました。
自分を救ってくれていた場所がなくなることの悲しさは、もちろんあります。
それでも当然、バイトを始めるような軽さで「その話のった！」とは言えないこと。
一方で、自分と同じように、スナックのもつ魅力に多くの若手、
特に女性が惹かれるのではないかと感じていました。
実際、自分がスナックで働き始めてから、二人の後輩も立つようになり、
同じようにコミュニティとしてこの場をにハマっていました。
全国や全世界で普及するアプリ・サービスではなく、
カウンター席が10ほどしかない小さなスナックだからこそ生み出せる価値があると確信していました。
そんなスナックが全国にコンビニの数以上あり、しかし、それらの店舗が軒並み閉業になる未来が本当に近いなんて。
仮にでも渡されたバトンを受け取らず、大好きな業態が廃れていくのをただ傍観するのが、
やっぱりダメな気がする。
これまで通りの空間を維持しつつも、
自分と同じように、世代ならではの悩みで孤独になっている若手にも届くような場を
作れないか。
そんなスナックの可能性を感じ、継ぎたいと小さく決意したのです。
***
「スナックやりたい！」と動機付いた自分。それでも、ビビりな私はその勢いだけではスナックは始められませんでした。では、どのように「継げる状態」になったのか？
後編に続く… 次回は、11/24（水）またお会いしましょう！
