リブランディング・コンサルタントである“あきねぇ”こと藤田昭江。
BALL.で『ブランディング相談室』の連載をスタートした“あきねぇ”ならではの視点で見る、あのお店のリブランディングPOINT!
西東京市創業48年の想いを受け継いだ ドレス衣装販売「D.grace」榎田ゆきみさん
榎田ゆきみさんとは、武蔵野商工会議所のビジネスチャンスの夕べで出会った。
『あの、藤田昭江さんですか??』顔を上げると、キラキラした美しい女性が立っていて、私は頭フル回転で
(誰だっけ?ダレだっけ?!この美女は誰だっけ??!)
と必死に考えた。
「Facebookでよく見かけてます。共通のお友達が何人かいるみたいで♫」
確認したら、確かにたくさん共通の知人がいた。そしてすぐに意気投合して、気がつけば私が主催する『2代目スナック』のチーママとしても活躍してもらうほど、仲良しのお友達『ゆきみちゃん』になった。
ゆきみちゃんは、いつ見ても姿勢がよく凛として、お話しするとなんとも言えない優しい口調で私を包み込んでくれる。
こんな柔らかな雰囲気は私には到底出せない…憧れてしまう♡
子どもの頃、家業は好きだった?
祖父の代はテーラーをしていた。
スーツなど紳士服をお客様に合わせて仕立ていた。創業48年の老舗だ。
子供の頃、家業は好きだった?
そう聞くと、好きだったと即答。
寿々屋のスーさんやFlesh PAL Beautyの谷津くんの家業について『当たり前』という捉え方とは少し違かった。
だけど、こうとも言う。
「家族で出かけられる時間は少なかったから、子どもの頃はつまらないと思ったけど…」それでも、親たちが楽しそうに仕事をしていたから嫌な感情はなかったと。
しかし、祖父母や親が仕事の話を家に持ち込んでいるのだけは嫌だったという。
この辺りは、家族経営アルアルなのでは?
やりたいことを諦めない、事業継承
母の代で西東京市に構える店舗「D Grace」を出したのが4年程前。
ちょうどその頃に家業を継いだ。
家業にはずっと携わってきたし家業も好きだったが、他にやりたいこともあり、ただ「継ぐ」ということに正直乗り気ではなかった。
そもそも、祖父の代のテーラーに加え、母がダンス業界の仕事を事業に取り入れていた。それなのに、なぜか『守り』に入っているゆきみちゃんがいた。
伝統を重んじる業界を好きなゆきみちゃんは、きっと祖父の代からの歴史が体にも心にも刻まれていたんだと思う。
着物ドレスはテーラーの『歴史』と、インポートは『ダンス』に付随したパーティーとの共通項があった。ゆきみちゃんは、祖父と母から『継ぐ』ことを自然と選んでいる。
元々やりたかったヘアメイクや国際交流、そして着物。その想いは残し、ただ継ぐということではなく、祖父の代からの『カタチ』を変え『想い』を継いでいくことが大切だと気がついた。
ゆきみちゃんの代になり、セレクトショップ的インポートと、着物リメイクを新しく取り入れた。
守られてきたから、守りたいになった瞬間
継ぐという意識を持って入った時に、初めて知ることになったのが経営者の思い。
「おじいちゃんの偉大さとか、守られていたことを痛感した」。
それからは、経営者目線でいろいろ見るようになった。
そして、自分が守っていこうという意識に変わっていく。
何事も、そこに意識があるかないかで大きく変わる。
例えば、妊娠中には『お腹に赤ちゃんがいますキーホルダー』がそれまでの何倍も目に入るように。
ブランディング的にも『意識してもらう』ことは重要で、ゆきみちゃんは経営を強く意識したその時から、きっと経営者人生が幕を開けたのだと思う。
ゆきみちゃんはダンスの会場に一歩足を踏み入れた。観客席ではなく、出場者の衣装を身につけて、『経営者』という演者としての人生をスタートした。
3代目だから感じるハードル/業種によって異なる時代の『流れ』
祖父から母への承継は、そこまでのジェネレーションギャップはなかった。
だが、母からゆきみちゃんへの承継は、時代が変わりすぎていた。
アナログからデジタルの時代。極端に言えば、家電(イエデン)から5Gへと時代は進んだ。
時代の流れの変化は、この時代に承継した2代目3代目がみんな感じていること。ファッションは特に、時代でカタチを変える。
スーツ1着とっても、デザインは流行でガラッと変わる…
だから、同じ形態で継いでいくことは特に難しい。
対面販売が当たり前だった時代からネット通販も普及した。サロンのあり方も変わっていかないと、今まで通りでは想いを繋ぐことができない。
今の時代の事業承継は、一筋縄にはいかなそうだ。
家業を継いだから、別業種(着物)にも興味を持った
スーツは、生地や仕立てなど一貫した作り方がある。
歴史や誇りを持って作り続けている、テーラーの世界。
一方、着物愛も縁起の良い柄などはずっと変わらないし技法も変わらない。
伝統あるものを今のものとして継いでいくことを仕事にしたいと思ったのは、間違いなく祖父からのテーラーへの想いが背景にある。
今は着物の着方について強く指摘されることが少なくなった。伝統を重んじながら自由にできることはありがたい。
むしろ、カタチを変えることに柔軟である時代だったからこそ、ゆきみちゃんが、ゆきみちゃんらしく承継出来たのかもしれない。
「家業であるファッションの中で生かしていけることがやりたい」
もう少しで、老舗を謳える。
あと2年で50年。銀座山形屋から独立してスタートしたのが原点。祖父からの『仕事』を繋いでいきたい。
「今も少しずつ始めている紳士のオーダーの完全復活をしたい」とゆきみちゃんは考える。
ただ、今は大っぴらにせずに、昔からのお客様の口コミで細々と『繋ぐ』。
自信はあるけど手が回らず、そして祖父の時からの『想い』がありすぎて、まとめ切れていない。
そんなふうに正直に言ってしまうのも、いかにもゆきみちゃんらしい。
本当に素直で、真っ直ぐで、素敵な女性だ…。
ブティックでのインポートの販売や、ダンス衣装に、オーダー事業…元々やりたかったメイクの仕事の活躍もSNSで見かけて、私は嬉しい気持ちになってしまう。
着物ドレスの需要はまだ少ないけど、少しずつオーダーも入ってきている。
欲張りかもしれないけど、ゆきみちゃんはきっとこの全てをバランスよくやっていくのだと思う。
人一倍どころか、人五倍頑張り屋さんの彼女だから。
3拍子のワルツのリズムで歩んでいくのかもしれない。
1・2・3、1・2・3・・・♪
3代分の想いを詰め込んだD・Graceはお客様というパートナーとステップを進めていく。
DATA
D・grace
11月15日より店舗運営は終了し、訪問へ変更いたします。
お問い合わせはHPまで。
https://www.delica-grace.com/
藤田昭江(ふじた あきえ)
『アナタノ名刺、ダイジョウブ?』と書かれた名刺を配り、愛のある鞭で斬っていくスタイルでインパクトを残すリブランディングコンサルタント。2代目社長研究家の肩書も持ち『2代目が元気になると日本が元気になる!』を掲げ≪ 2代目スナック≫も定期開催中。
http://dou.annibirthcolor.com/