ダイバーシティの本音~わたしたちは特別に扱われたいわけではない~

ダイバーシティの本音~わたしたちは特別に扱われたいわけではない~

 けやき出版が運営するギルド組織「BALL. COMPANY」のメンバーで、普段は都心の会社に通いながら、副業的に地域に関わっている芦田真子さん。グランデュオ立川3FのBALL. HUBにて計2回のダイバーシティセミナーを終えた芦田さんに、今の想いを綴っていただきました。

個性を生かせる時代

 ひと昔前は雑誌や広告、モデルから「今年のトレンドはこの色!」「流行りのファッションはこれ!」といった情報発信がなされ、トレンドに敏感であることが大切だった。

 しかしながら、今や「自分に合う色は?」「自分の骨格に合ったファッションは?」といった、パーソナルな診断から自分にしっくりと合うものを選ぶことが主流だ。

 それぞれの肌の色や個性に合わせ、ファンデーションやアイシャドウなど繊細なカラーバリエーションを揃え、ずらっと数十種類並べているブランドもあるくらいだ。さらに近年では男性でもメイクを楽しむ人が増え、メンズコスメも売られるようになった。ファッションでもプラスサイズが増えた。ユニセックスやジェンダーレスといった、性別を問わず手に取れる商品も数多く出されており、個人的にとてもうれしく思っている。

 それらは、商品やキャンペーンなどに人種や性別、体形などに偏りがないよう、包括していけるように企業が注意を払っているからでもある。

 

ダイバーシティと「特別扱い」

 2021年に発表された男女格差を測るジェンダーギャップ指数において、日本は先進国の中で最低レベルを叩き出した。このニュースは、本当に耳の痛い話だった。

 実感はあった。いくつか転職をしてきたが、ある職場では女性よりも男性の方が早々に上のポジションの打診とトレーニングが始まっており、どんどん昇格した。ある職場では女性ばかりなのに、支部長が唯一の男性だった。キャリアを築いていく上で、女性管理職などのロールモデルが身近にいたことはあまりない。


 数年前に、自分が働く会社でダイバーシティの取り組みをしたいと声を挙げてみた。自分自身がLGBT当事者であり、会社をもっと居心地よくしたいと思ったからだ。とはいえ、実は何も知らなかったので、まずはダイバーシティ&インクルージョンという言葉を知るところから始め、他の企業の取り組みを調べ、実際に取り組んでいる企業やLGBTイベントなどに足を運んで学んでいった。そこから学んだことを社内で発信したり、実際に制度などを提案した際には様々な反応があった。一緒になって学び、受け入れたり支援してくださる声もあったが、その半面、ネガティブな声も受け取った。

 まずは「特別な扱いは必要ないのではないか」という声。また、「先に解決すべき課題があるため、優先度は低いだろう」という意見だ。

「確かになぁ。わかるわかる」そう思いつつも、「そうじゃないんだ」といったモヤッとした気持ちがあった。

 マイノリティたちは、決して自分を特別扱いしてほしいわけではない。どんな時でも、誰とでも、同等に働ける環境がほしいと願っているのだ。それが福利厚生にパートナーシップ制度を導入することや、生理休暇を設けること、子育てや介護などに合わせてフレックスに働けることなどである。

 日本は社会的に多数決で物事を決められやすかったり、前例がないと意思決定が非常に遅かったりする。フットワークは決して軽くない。ダイバーシティも必要だが、インクルーシブ(包括的)であることもまだ課題があるかなぁと感じる場面だった。

 今や、生き残りをかけた競争戦略としてダイバーシティを推し進めている企業も増えてきていると思う。少子高齢化社会において女性の管理職の登用を増やすことや、シニア層や外国人人材の活用はもちろん必要な取り組みである。また、前述したジェンダーギャップの課題や、SDGsにも「ジェンダー平等を実現しよう」という目標が掲げられており、ダイバーシティ&インクルージョンはホットな取り組みだ。

 さらには、昨年末にDEIという言葉を知った。「ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)」のことだ。多くのグローバル企業ではこちらの方が注目されているという。英語が増えてだんだんと複雑になってきたな……と思ったりもしたが、「エクイティ(公平性)」が入っていたことは個人的に胸がすく思いだった。

 一人ひとりの状況に合わせて制度やリソースを用意し、公正に扱うこと――平等かどうかではなく「公平・公正」さが大切ということは、先ほどあった「特別扱いは必要ないのでは」という意見を静める。

 DEIは、単に企業の生存戦略だけではない。一人ひとりが自分らしく、安心して生きるためにも必要なことなのだ。

 とまあ、重々しく語ってしまったが、結論としてはコスメやファッションのように選択肢が増え、自分で楽しく選べたらいいなということだ。

 

Photo : Jouji Suzuki

●芦田 真子
飲食店での接客や店舗販売、採用やIT営業などを経験。カミングアウトを機に、社内のLGBT研修やLGBTコミュニティ運営を行っている。



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