あきねぇのブランディング相談室 #7 公務員から蕎麦店『柏や』の3代目に

あきねぇのブランディング相談室 #7 公務員から蕎麦店『柏や』の3代目に

リブランディング・コンサルタントである“あきねぇ”こと藤田昭江。
BALL.で『ブランディング相談室』連載中の“あきねぇ”ならではの視点で見る、あのお店のリブランディングPOINT!

家業は好きじゃなかった

誰もが家業に愛着を持っているわけではない。
岩崎守利さんもその一人だった。

岩崎さんと私の出逢いは
数年前の、武蔵野法人会女性部会の納涼会。

三鷹駅前にそびえ立つ商業ビル『コラル』は、
正直言って、三鷹市民以外は知らない場所かも、汗。
でも、生粋の三鷹っ子のあきねぇ。
三鷹駅の奥ゆかしさを愛しています(ハート)

あ、ご紹介が遅れましたが、
岩崎さんはコラル内にあるお蕎麦店さん
『柏や』の3代目。

1930年創業の老舗だ。

そんな岩崎さんに聞いてみた。

「家業は好きでしたか?」

すると、返ってきた答えは

「正直、好きじゃなかったですね…」

子どもの頃は近所にまったく友達がいなかった。
家業のため、土日は両親が家にいない。
同級生とはまったく違う環境で育った。

だから、岩崎少年は思っていた。

「嫌だなぁ…僕も継がないといけないのかなぁ…」

時は経ち、高校生になった岩崎青年は、障がい児キャンプのお手伝いをするボランディア活動に励んだ。

「もっとしっかり学んで仕事として続けていきたい」

そう考え、大学卒業後は社会福祉の専門学校へ進んだ。

三鷹市役所職員から三鷹市議会議員へ!?

卒業後、三鷹市役所の面接を受け、市役所の職員に。

え!? 三鷹市役所の職員だったんですか!?

募集は「事務職」だったが、
障がい者センター(三鷹市北野ハピネスセンター)
ができて間もないことを知っていた岩崎さんは
今までの経験と資格を活かせると思い、
同センターへの配置を希望。
見事採用され、5年間勤務した。

その後、三鷹市役所へ異動。

そして、三鷹市議会議員にトップ当選!!

え!? なに何!?

突然すぎてついていけませんでした、私。
(詳細は思い切ってショートカット!)

当選も束の間、1カ月で辞任。

え!? なに何!?

突然すぎてついていけません、私。
(詳細は思い切ってショートカットしますが、やむにやまれぬ理由のため、退職となった)

辞任後、役所時代の先輩の紹介で一般企業へ就職。
そこで2~3年、経理や飛び込み営業、銀行との商談などを経験した。
一方、その頃、三鷹駅前は再開発の真っ只中。
その責任者が、岩崎さんのお父様だった。

ところが、ガンが再発して、
岩崎さんに家へ戻ってくるよう、連絡が入る。

そうして岩崎さんは会社を辞め、
家業の道へ進むことになった。

コラルは大盛況も、大赤字…

再開発ですごい賑わいだと聞いていたので
左団扇かと思ったら…
実際はひどい状態だった。

ウワサ通り賑わう館内、売り上げもすごい。
でも、その分、出費もすごかった…。

しかし、いま店を辞めたら、借金の担保になっている自宅も何もかも取られてしまう。
その時はまだ売り上げも良かったので

節約できるところは切り詰め、どうにか凌いだ。
そして、定番メニューだけではなく、
季節のものなどを出すようにした。
コンサルにアドバイスをもらったり、
都心の流行っている店を見に行った。

そして、熟考の末、店内を大改装することに。
客単価が高いディナータイムにお客さんが入るお店にするため
新たに和食の職人を雇い、
お蕎麦だけではなく、宴会ができるような店を目指した。

そうして、2億円あった借金を
6年で半分の1億円にすることができた。

だが、昼と夜のメニューのバランスを取り、
オペレーションが出来上がるまでは10年ほどかかった。

岩崎さんは言う。

「公務員10年、サラリーマン3年
なんでもやらないといけない状況、
できないなんて言えなかったですよ」

リニューアルすることで
それまでのお客様を失うかもしれない。

だけど、
お客様も一緒に年をとるわけだから、
新しいお客様をどう増やしていくのか?
そこを考えなければ、店の存続はない。

こうして新生『柏屋』が誕生した。

従業員の顔を知ってもらって常連客を増やす

東日本大震災直後、客足が途絶えた時は
さまざまなイベントを開催した。

柏やの従業員は多彩。
バイオリニストや元女優もいる。

従業員の人柄を知ってもらうおうと、朗読劇をやった。
イベントをやることで店主や従業員の顔を知ってもらえ、
お客様同士のつながりもできていく。
自然と常連客が増えていった。

ここで、どうしてもお伝えしたいエピソードがある。

親子3代で通ってくれている常連客がいて、
そのお婆さまがお金を払わないで帰ってしまったことがあった。

何かあったのか心配でご家族に確認をすると、
認知症を患っているという。
その時、岩崎さんは思った。

「独り住まいで困っていたり、
居場所がなくて寂しい方たちの
お役に立てることはないのか?」

きっかけは、認知種専門のクリニック「のぞみメモリークリニック」。
このクリニックに携わる関係者の方々による
「認知症の方々が安心して暮らせる地域づくりグループ」から声をかけられ、
三鷹商工会の『ちょい飲みフェスティバル』に参加したことだった。
その時、地域の個人店は、認知症の方々が地域で生きていく
必要不可欠な「場所」であることを気づかされた。

軽度の認知症の人が地域に案心して通える場所があれば…。

「地域の店というのはそういう役目」

岩崎さんの温かいまなざしが、印象に残った。

筆者は、この取材を通して強く感じた。
「飲食店は、地域になくてはならないソーシャルビジネス」
だと。

コロナ禍で多くの飲食店が苦境に立たされる昨今、
飲食店は大切な社会資源、インフラであると強く感じ、
それと同時に、美味しい食事とお酒が愉しめること。
そんな「場所」を提供してもらえる幸せを、いま一度かみしめたい。

お蕎麦だけでなく、個性豊かなお料理とお酒。
老若男女さまざまなお客様や、個性豊かな従業員、
そんなダイバーシティに集える蕎麦屋。

だからこそ、蕎麦のように長〜く愛される。
柏屋の蕎麦は、かむほどに味わい深い。

リブランディングポイント

  • 出費を押さえる工夫はなんでもする!!
  • 従業員の個性こそ、財産であり強み
  • お客様と一緒に年を重ねる、だからこそ「変化」に前向きに

DATA

季寄せ 蕎麦 柏や 三鷹コラル店
日~木11:00〜21:00(L.O20:30)/金・土11:00~22:00(L.O 21:20)/定休日 元日と1月2日、4月・9月の第2木曜/三鷹市下連雀3-35-1三鷹コラルビル4F/JR三鷹駅南口を出てすぐ/0422-48-2349

藤田昭江(ふじた あきえ)
「アナタノ名刺、ダイジョウブ?」と書かれた名刺を配り、愛のある鞭で斬っていくスタイルでインパクトを残すリブランディング・コンサルタント。2代目社長研究家の肩書も持ち、「2代目が元気になると日本が元気になる!」を掲げ≪ 2代目スナック≫も定期開催中。
http://dou.annibirthcolor.com/


 

 

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