ProjectStory#8 末岡新果園に実る未来

ProjectStory#8 末岡新果園に実る未来

6代目が守るレモン畑

4回目の広島県呉市現地レポート。今回ご紹介するのは、レモン畑を案内しながらたくさんのことを教えてくださった末岡さんが営む末岡新果園です。

レモンの木に潜り込むようにして収穫時期のレモンを見定める末岡さん

柑橘の島で100年

末岡新果園は、今回畑を案内してくださった末岡和之さんで6代目。元々は農家として開業し、1903年(明治36年)頃、4代目だったお祖父さまの代から柑橘園に形を変えます。昭和に入った頃には青江という種類のミカンを栽培し、「大長(おおちょう)みかん」のブランドのもと全国に名をはせました。

末岡さんの畑があるのは、とびしま海道の大崎下島。「大長みかん」誕生の地である大長地区です。この地区の住民にとって、長きに渡り生活を支え、島の風景を作ってきた「大長みかん」は特別な存在でした。そのことを物語るもののひとつとして、1976年、大長町内会の人たちの手により建立された石碑があります。“柑魂”という言葉が刻まれたその石碑には、当時の広島県知事によって、『明敏にして果断なる先覚者、耐え難きを耐え今日を築いた父祖、全人之“柑魂”、吾等父祖の業を継ぐものすべてこの“柑魂”に徹し、以て先人の遺志に応えることを誓うと共に、偉大なる先覚者を景仰し、父祖の労苦を偲び、永しえにその遺徳を伝えんとして“柑魂”の一碑を建立する』という文章が記されています。(農民運動全国連合会発行 新聞「農民」2004.1.19より)

そんな中、末岡新果園でレモン栽培をはじめたのは、柑橘園として生まれ変わったのと同じ1903年(明治36年)頃。その20年後、1924年から1940年にはすでに、国産レモンの約8割が末岡新果園の畑もある大崎下島で生産されていたと言われています。(参照元同上)

『うちの家はミカン御殿なんて言われてますが、もし言うなら、本当はレモン御殿です(笑)。レモン栽培をはじめた僕のおじいさんは、みんながミカンをせっせと出荷しているときにレモンを出していたんですが、当時、同じ量でもレモンの方が価値が高かったそうです。その後、親父の代で、レモンと清見とミカンだけで他はやらないと決めたんです。島の中でも、うちの畑がある側は冬場ほとんど日が当たりません。日照がないとミカンは糖度が上がらず適さないので、ここはもう全部レモンにしようと』

末岡新果園の畑で代々育てられてきたレモンは、現在、個人出荷に加え、とびしま柑橘倶楽部を通して、立川をはじめ全国へ出荷されています。

収穫したばかりのレモンから爽やかな香りが漂う

 

カゴいっぱいのレモンを全国へ

末岡新果園の畑で栽培されているレモンは、ワックス・防腐剤・防カビ剤を使用せず、農薬使用をできるだけ減らしながら育てられたもの。完全無農薬で育てている一角もあります。現地では、実際に収穫を体験させていただきました。

『ハサミで実を傷つける危険があるので、一度、枝が少し残るように切ってから二度切りします。収穫したレモンをカゴに入れると、1回で1人30杯かな。1杯20kgくらいなので、600kg。ベテラン中のベテランの場合ね(笑)。これだけはどうしても手作業なので』

収穫は毎日ではなく、11月から5月いっぱいまでに取り切れるよう、大きく実ったものから順番に進めていきます。末岡新果園の畑には、植えたばかりの苗木から30年以上経つ古株まで、350本ほどのレモンの木があります。元々はリスボンという品種で、そこから枝分かれした系統のもの。無農薬で育てたレモンをハサミで切り、その場でかぶりつきながら末岡さんはこう言います。

『甘くて美味しいねって言われるミカンが糖度12以上とすると、ここの土地のレモンは同じくらいあるんですよ。クエン酸が強いからすっぱく感じるけど、本当は甘い。これを食べたら外国産はもう食べられんよ』

自慢の瑞々しいレモンにがぶり
末岡さんのカゴは喋りながらの作業でもあっという間に満タンに
収穫したレモンは「モノラック」に乗せ、運搬用の軽トラックを停めた道へ上げる

 

受け継いだ宝を次の世代へ

末岡さんが6代目になったとき受け継いだのは、先代であるお父さまが接木して育てたレモンの木。苗木から育てると十分収穫できるようになるまでに長い年月がかかりますが、すでに大きくなった木にレモンの枝を接木すれば、3年ほどで実り始めるのだと言います。

『レモンの枝を切って穂木(ほぎ)を作り、木の皮を剥いたところに形成層をくっつけると、根っこや幹はミカンでレモンの実がつくんです。すぐ収穫できるので早くチャレンジしたい人には向きますが、大体一代で終わってしまいます。うちは途中でレモンの苗木に植え替えをしたので、僕の代と次の代は大丈夫です』

次の世代を見越して新果園を続ける末岡さん。とびしま海道の農家では、かつては県や農協が推奨する品種を作るのが一般的でしたが、この10年で一気にレモンが人気となり、とびしま柑橘倶楽部のメンバーになっている農家だけでも約50軒あると言います。
そんな環境の中で、レモンの栽培に関する新しい試みがいくつもスタートしています。大きな動きの一つが、立川でのレモン栽培の実証実験を含む「ひろしまサンドボックス事業」。末岡新果園では、気温・湿度・土壌中の水分量を計測するセンサーを設置してデータを栽培に活用したり、カメラを搭載したドローンの運用実験を行なっています。ドローンは、将来的に運搬用としても使えたらと検討を進めているそう。『ドローンオペレーターになります』と笑う末岡さん。その眼差しは、とびしま海道と国産レモンの未来を真っ直ぐ見つめています。

接木に使う穂木は枝を鋭角に削って作る
細い農道も滑るように走る末岡さんのドライブテクニックは圧巻
ドローンのテスト飛行は末岡さんの操縦で見事成功


Writing/國廣愛佳
Photo/寺島由里佳

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