調布市、緑豊かな野川のほとりにある神代団地。その商店街の一角と言えば、行ったことのある人は、あのお店があるところだ!とピンと来ますよね。あのお店とは、「手紙舎 つつじヶ丘本店」。編集チーム「手紙社」が2009年に初めてオープンしたカフェです。
駅前とは言えないし、繁華街でもない。築50年を超えるレトロな集合住宅に囲まれた広場では、たくさんの親子連れが大きなヒマラヤ杉の下に集まっています。コロナ禍以降、都心に出かけづらいこともあって、地元や近隣地域からのお客さんが増えているそう。
こんなに伸びのびした場所、ひさしぶりに来たかも…。
消えなかったカフェの灯り
店内限定の「プリンアラモード」の美しさに見惚れながらぼんやりしつつ、どうしても気になるのは、手紙社の今。長く続く苦境に飲食店の閉店も多い中、お気に入りのお店にライトが灯っていると、本当に「ありがとう…」という気持ちになります。
とは言え、カフェはにぎわっていますが、メイン事業のイベントはコロナ禍で軒並み中止になっているはず。手紙社にとってイベントは、お客さんや作家さんと顔を合わせ、“手紙社らしい”世界観の中で、それぞれの声や物語を受け取り、伝えられる場所。社会全体が苦しい経験をしてきたからこそ、柔らかな笑顔のスタッフさんにだって、大変なことがきっとたくさんあるのに…と考えずにいられません。
大丈夫ですかなんてストレートに聞くのは失礼だし…ともじもじしていたら、なんと代表の北島勲さんから直接お話をお聞きできることに!
このまま、会社を畳むのか
「去年、2020年の3月から7月くらいかな。本当に生きた心地がしなかったですね。正直言って、半分以上の確率で会社を畳まなくちゃいけないなと思っていました。ちょっとこれは難しいかもしれないと」
「もみじ市」「東京蚤の市」「紙博」など、数年かけて準備した年14本のイベントのうち、12本が中止。大黒柱である事業が倒れてしまうなんて、経営者でなくても、想像しただけで息が止まりそうです…。
「ニュースでは、イベント事業が大打撃と言われたり、給付金の話が出ますよね。コロナ禍に入る前の話にはあまり触れられないですが、準備は1年2年前から始めています。イベントの主催者としては、それなのに直前でできないというのが一番痛い。もちろんお金がかかりますし、精神的にも苦しいんです」
スタッフの雇用を守り、手紙社を続けていくためには、一体どうすればいいのか。
UberEatsの配達からスーパーの求人まで、あらゆることを検討した末、何ヶ月続くかわからない雇用調整助成金を使った休業ではなく、新しい事業を生み出す道の開拓へと踏み出しました。
ピンチだからこそ「やってみよう」
初めて行ったクラウドファンディングでは、1,500万円を超えるサポートが集まっただけでなく、寄せられた想いやメッセージが宝物になったそう。
さらに、オンラインイベントの企画、「月刊手紙舎」、長らく構想していた「部員制度」など、新たな事業が次々と発表されています。
「“部員”という名前はとても考え抜きました。会員とかファンクラブが一般的ですが、そうじゃないんだよと。壁がない感じがしますよね。部員に向けて毎朝6:30から夫婦でラジオを配信していて、生存確認と呼んでいるチャットでの会話もすごく盛ん。部員と一緒に、新しいメディアをつくっている感覚です。僕より部員さんの方が手紙社のことを知ってるんですよ。『月刊手紙舎』の今月号発表されてましたね!』『えっ本当!?』みたいな(笑)」
新しい事業に成長しつつあるプロジェクトのどれもが、追い込まれたコロナ禍だから「やってみよう」と実現したもの。「乗り越えたという言葉はとてもじゃないけど使えません」と言う北島さん。ピンチをチャンスにと言うのは簡単ですが、現実はそう軽やかにスイッチを切り替えられるものではありません。
『BALL.』誌面では、経営者としての北島さんからお聞きした率直な言葉、そして、手紙社が歩んできた今日までの試行錯誤と、その先に見えてきた新事業の内容についてたっぷりとご紹介しています。ぜひ、お手元でご覧ください。
手紙舎 つつじヶ丘本店
調布市西つつじヶ丘4-23-35 神代団地商店街 101/京王線つつじヶ丘 南口徒歩10 分/042-444-5331 ※現在ご予約やお取り置きは承っておりません/11:00-16:00(15:30LO)/毎週月・火曜休み(祝日の場合は営業)
Text : Aika Kunihiro
Photo : Jouji Suzuki