インターン体験記 ~地域を支えるもの~

インターン体験記 ~地域を支えるもの~

お金を稼ぐこと、社会に役立つこと、楽しむこと。働く目的ってなんだろう?多摩の大学に通う杉井が、まだ知らない仕事の現場を体験して感じた、ありのままの記録。いくつかの中から、今回はユギムラ農場での体験をお届けします。

杉井 龍一 中央大学商学部3年。地域活性化への関心から、けやき出版のインターン生として取材や執筆を行っている。)

農業を知る
株式会社アンドファームユギ

農業と聞いて、あなたはどんな映像が頭に浮かぶだろうか。豊かに作物が実った色とりどりの畑か、黄金色に輝く田園風景か。今回はそんな農業のイメージとは少し違う、ユギムラ農場で体験した、リアルな農業を感じてほしい。

多摩ニュータウン計画で起きた農地を守る運動をきっかけに生まれた、安心安全な無農薬野菜をつくるFIOの拠点として、若い世代の活動が活発に行われているユギムラ農場を訪ねた。

野猿街道を外れトンネルを抜けると、緑の風景が広がる。広大な畑だ。しかし人を見つけたのは、倉庫の中だった。3人で野菜の出荷準備をしているようである。FIOの大神辰裕社長の弟直樹さんと、お手伝いとして働く田所さん、そしてデザイナーとして関わったのをきっかけに農作業も手伝うようになったという井手さん。

3人に軽く挨拶をした後、私もその作業を手伝った。緑ナスの袋詰め作業。袋に入れたら、シールを貼る。シールにはバーコードと野菜の名前、特徴が記載されていた。緑ナスは、大きな緑色のナスで、水分が多く、加熱するととろりとした食感になるらしい。「お店で扱ってもらいやすいのもあり、FIOではめずらしい野菜が多いんです」と井手さん。味を想像しながら淡々と作業した。地味な作業だが、私はこういうのが好きなタイプだ。

次は収穫されたバターナッツ(かぼちゃの一種)の泥を落とす作業。見た目が可愛く、子犬を抱いているように感じられた。もちろん自分が育てたわけでもなければ、子犬とは似ても似つかないのに、非常に愛着が湧いていた。

泥を落としながら、検品も行う。シワが目立ち、見た目が良くないものは出荷されない。直樹さんによると「FIOでは農薬や化学肥料を使っていないので、4割程度は省かれます」という。4割という数字に驚いた。「ナスとかは見た目が良くない方が美味しい場合もあるんですけど……」もちろん4割すべて廃棄されるわけではないが、味には差がないのにも関わらず、市場に出ると、見た目で大きく価値が変わってしまう。形の綺麗なバターナッツを探して喜んでいた自分に、どこか罪悪感を抱いた。

配達を終えた社長の大神辰裕さんが倉庫に戻ってきて、一緒に数十メートル先の畑へ向かった。着いた畑に作物はなく、黒いマルチシートが張られているだけ。これを剥がす作業をするという。マルチシートは、畑の表面を紙やプラスチックフィルム等で覆う意味の「マルチング」が語源。作物の病気の原因になる泥はねや水分の蒸発に加え、雨で土が固まるのを防ぐことができる。しかし、剥がす際に破れて地面の中に残りやすいと話す大神さん。残らないように、鍬で地面を掘り起こしながら、慎重に剥がしていく……。

だが、全然進まない。この日は気温も高く、汗が目に入った。ほんの2,30分ほどで、かなりの体力を消耗する。ハンカチも土で汚れてしまった。毎日これを続ける農家の方は凄まじい。土日も休みなく働くという大神さんに、大変でしょうと聞くと、「そうでもない」と答えた。私は思わず、「えっ」と聞き返した。

実家が地元の福岡で農業をしており、自分も結婚を機に東京で農業を始めた大神さん。「農家になった以上、休みがないのはしょうがないからね」「農業は好きですか?」「いや、好きではない。大変」「やっぱり大変ですよね……」私は虫除けを諦め上着を脱いだ。「うーん、やっぱり、農業は好きだけど、農作業は嫌いかな(笑)」。楽しそうに話す大神さん。私もつられて笑ったが、疲れて声は出なかった。

農作業の大変さは地味かもしれない。収穫のタイミング以外は、作物が少し大きく育ったとか、今回なら畑がきれいになったとか、苦労に対してわずかな変化だ。達成感より、安心感に近い。収穫のその時まで、地道な努力を続けながら、わずかな変化を楽しめる気持ちが、農業を続けるのに大切なことなのだろうと感じた。そして、農業でもそれ以外でも、大変な時、大神さんのようにいつも笑顔で働けたら、何より素敵なことだと思った。

農業と聞いて、あなたはどんな映像が頭に浮かぶだろうか。Googleで画像検索すると、出てくるのはほとんどが収穫の瞬間だ。「農業は大変そう」と言われるが、実際の苦労はまだまだ知られていない。それゆえに、私たちにとってどこか遠い存在になっているのではないだろうか。無農薬野菜は身体に良くて美味しいとか、値段が高いとか、その大変さを知らずに語って良いのだろうか。

農業は地域の魅力の根幹。食も景色も、農業から生まれる。そんな農業を、もっと身近な存在にしたいと思った。

帰りに大神さんから、ユギムラ農場で採れた野菜をいただいた。バターナッツかぼちゃで作ったポタージュはほんのり甘かった。優しく深い後味が忘れられない。


FIO
八王子堀之内900-1/京王堀之内駅徒歩15分/042-689-4347

http://fio8.com/

Photo : Jouji Suzuki 

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