小倉ヒラク(発酵デザイナー)×小野裕之(BONUS TRACK)が明かす、発酵ツーリズムの裏側

小倉ヒラク(発酵デザイナー)×小野裕之(BONUS TRACK)が明かす、発酵ツーリズムの裏側

「発酵ツーリズム」をご存じですか?

旅が発酵するの?

発酵食品のグルメツアー?

そんな薄っぺらなものではありません。

発酵食から見えてくるその土地の文化や風土を紹介しながら、“発酵”視点で日本の価値を再発見する旅に誘うのが「発酵ツーリズム」。

どの時代にとっても大きな関心事である“食文化”から地域を掘り下げることで地域の思わぬ水源を見つけ、個別に語られてきたことが一つのストーリーとなっていく——確かに「発酵ツーリズム」は、つぎはぎだらけのツーリズムよりはるかに“公共性”が高い文化づくりになっています。

2019年、渋谷ヒカリエで開催した「Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~」が5万人を動員したのをはじめ、2022年には福井県の「金津創作の森美術館」で企画展、多摩エリアでも立川市のGREEN SPRINGSで「発酵で旅する東京の森‐Fermentation TourismTokyo -」が開催されるなど、「発酵ツーリズム」ビジネスは大盛況です。

それを仕掛ける発酵デザイナーの小倉ヒラクさんや発酵デパートメントCFO/BONUS TRACKの小野裕之さんは、さぞや大儲けをしていると思いきや……そうでもない!?

彼らいわく「発酵ツーリズム」は「手弁当公共事業」とのこと。

『BALL.VOL05』ではヒラクさんと小野さんが発酵食品にひもづく、さまざまなストーリーについて語ってくれました。誌面で未公開の発酵ツーリズムの裏側をBALL. WEB MAGAZINEで少しだけお話しします!

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発酵ツーリズムの委託金はすべて制作費

発酵デザイナー・小倉ヒラク氏

ヒラク 北陸でも多摩の企画展でも、委託金としては僕らの利益は実質1円もないんです。取材費、コンテンツ制作費、動画制作費などの予算しか組まれていません。「発酵ツーリズム」企画者として収益を上げられる部分としては、北陸でいうと金津創作の森美術館」のチケット収入。多摩エリアではGREEN SPRINGS内に設置されているポップアップストア「発酵デパートメント」での販売収益だけです。

 美術館での展示会にしても、基本的な展覧会の予算しかありません。制作費だけでも地域の補助金が欲しいところですが、補助金を取ると地域が縦割りになってしまうので「補助金を取らずに興行収入だけでいこう」と決めてやってきました。

小野 制作費の不足分を補うためにスポンサー探しも自分たちで行いました。そこまでやらないと、「こうなったらいいのに」という理想のカタチにできない。理想のカタチに近づけるためには、まずは自分たちでリスクを取るしかないんです。

ヒラク でも、始めたらやはり大変で、「やってられないよ」なんて毎晩泣き言を言ってましたね(笑)。

小野 ローカルとかソーシャルビジネスがスムーズに仕事になるかって言われたら、2022年現在でも難しいです。それを当たり前にしていきたい、これからの10年ではありますが。

 比較的調達しやすいIT系のベンチャー企業も、10年前に35歳の人が10憶円調達できたわけではありません。やはりトレンドというものがあって、ソーシャルビジネスもトレンドになることができれば投資、魅力的な仕事、資金、人材が集まってくるとは思うのですが、まだ前夜ですね。

 ある程度スケール感のあるソーシャルビジネスをやるとして、預金残高というか投資余力貯金が3,000万円ぐらいあるか、それぐらい追加で融資を受けることにリアリティがあって、生活コストもそれほど高くない場合はいいのかもしれませんが、今はまだまだ……。なかなか難易度は低くないぞ、という感じはします。だから、この仕事は生半可にはできない、手弁当公共事業なんです。

 

発酵を通した多摩連携のあり方

発酵デパートメント取締役CFO/BONUS TRACKの小野裕之氏

ヒラク 『BALL.』VOL.5の記事を読んでもらえると分かると思いますが、発酵から地域をひもといていくと、自治体や商工会といった枠組みとは違う形のエリアを出現させることができます。

多摩エリアで言えば、都心部より山梨とつながっているエリアが見えてきます。だから自治体単位に収めてしまうのがもったいないわけで、普段はつながりの薄い自治体同士の連携ができるといいですよね。

小野 ビジネススキームとしては、自治体の線引きに左右されないよう、リアルビジネスを支援してくれるデベロッパーとか金融機関がビジネスパートナーとしてついてくれ、地域の事業者や自治体がそこに連携してきてくれるのが健全ですね。

ヒラク GREEN SPRINGSからは毎年、「発酵ツーリズム」の企画展をやってほしいとは言われていますが、まずは今回の企画展をやりきります!

Text: Mio Sakiya
Photo:Jouji Suzuki

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『BALL.』VOL.05 「発酵のしごと」の発売日は、いよいよ11月15日(火)!

Amazonからのご予約・ご購入はこちら

 

●「発酵で旅する東京の森‐Fermentation TourismTokyo -」
2022.11.5(土)〜12.4(日)
立川・GREEN SPRINGS 2F TAKEOFF-SITE
“学べて買える”多摩の発酵食品が集まる博覧会。発酵食を巡る旅をテーマに日本酒、酒まんじゅう、郷土食「打ちいれ」など、日本古来の発酵食品はもちろん、ビール、チョコレート、パンなど近年多摩エリアで作られ、食されている発酵食も紹介! 47都道府県の発酵食を集めた企画展も同時に開催します。会場には物販エリアも設け、その場で発酵食品を購入することもできます。

オフィシャルサイト
https://fermentation-tourism.tokyo/

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