発酵食品がひもとく多摩のアイデンティティ「三上鰹節店」

発酵食品がひもとく多摩のアイデンティティ「三上鰹節店」

また、また、立川市にある複合施設「GREEN SPRINGS」で素敵な企画が!

2022年11月5日(土)〜12月4日(日)、「発酵で旅する東京の森-Fermentation TourismTokyo-」と題し、多摩エリアの発酵食がGREEN SPRINGS2階のTAKEOFF-SITEに集まります。

この企画をプロデュースするのは発酵デザイナーで「発酵ツーリズム」を提唱する小倉ヒラクさん。

「発酵食って、味噌とか、ぬか漬けとか?」と貧相な発想力では発酵ツーリズムは語れません。日本酒、酒まんじゅう、郷土食、ビール、チョコレート、パン……、言われれば確かに“発酵食”だと気づく豊かな地域の食文化。そして、発酵食品をキーワードに語るからこそ、輪郭がはっきりとみえてくる“多摩の文化”と、そのつながり。

『BALL.VOL05』では、ヒラクさんと、発酵デパートメント取締役CFOの小野裕之さんの対談が実現し、各発酵食品の裏側にひもづく、さまざまなストーリーについて語ってくれました。

Photo: Jouji Suzuki

「多摩の人たちがどういうアイデンティティで、どういう環境でどう生きてきたか——それを今回、発酵食品がひもといてくれています」とヒラクさんは話します。

なんだか、わくわくしますよね?

ということで、BALL.WEB MAGAZINEでは、ヒラクさんが「一番印象に残っている」と語ってくれた立川の「三上鰹節店」のストーリーを紹介します。その他のストーリーはぜひ、『BALL.VOL05』をお読みください!

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小倉ヒラクが聞いた「三上鰹節店」ストーリー

「三上鰹節店」、最高でしたよ。

和食の基礎を知ってる人にとって、「三上鰹節店」の品はすごくいいものだと分かります。お店で削った香り豊かな鰹節を出してくれ、こだわる人にとっては、こういう乾物屋がまちにあるのは素晴らしいことですよね。

もともと創業者のおじいさんは、千葉県の勝浦で煮干の水産加工をしていました。しかし、戦争終わる時に同じ部隊の戦友から「これから立川は米軍基地の街として栄えるから、そこで勝負してみたら?」と言われ、リヤカーを引いて立川にやってきたのです。

最初はバラックみたいなところに小さな店を構えて。でも、立川は内陸部だから誰も鰹節とか出汁の取り方を知らなくて全然売れなかった……。

それで、最初はリヤカーで、のちに自転車で一軒一軒、「鰹節はこうやって削るんだよ」とか「こうやって出汁を取るんだよ」と教えてまわりました。

僕は日本全国をまわっているからよく分かるんですが、「日本人ならみんな、出汁の取り方や使い方を知ってる」というのは幻想。北陸や京都の一部以外の人は出汁の深さをあまりよく分かっていません。だから、三上のおじいさんも最初はとても苦労されたはずです。

しかし、地道な努力が実り、少しずつお客さんが増え、そして、その頃のお客さんーが今もお店を支えているんです。一人ずつに出汁を取るという「和食の基本」を教えたことで、「三上鰹節店」は食文化を育てていったのだと思います。

外国人も納得の「出汁」のうまみ

「三上鰹節店」ではかなり早い段階から米軍基地の人たちを受け入れ、身振り・手振りで出汁の取り方を教え、鰹節を売っていました。日本人に広めた時と同じですね。

そうして出汁の味を知った米軍基地の人たちが、バカンスで帰国する際、お土産でたくさん鰹節を買って帰っていったんです。

米軍基地があるから立川に来て、米軍基地の人たちと交流して、出汁文化を海外にまで広めたことになります。

三上鰹節店の奥にあるヒミツの「相談室」

三上鰹節店の奥には「結納室」があるのを知っていますか?

苦労して得たお客さんとは強いつながりがあり、顧客のお子さんが結婚するとなると、結納や慶事といった相談に乗ってくれる—―そんな部屋が三上鰹節店の奥にはあるんですよ。

そういう教示やつながりがあるから、今でも立川でずっとお店が続いているんですよね。お母さんに話聞いたら、興味深い話が怒涛のように出てきて。

誰も海のものなんて知らないところへリヤカー引いて。子や孫の代まで世話焼いて。泥臭いことをちゃんとやっている姿――僕は憧れますね。

Text: Mio Sakiya

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『BALL.』VOL.05 「発酵のしごと」の発売日は、いよいよ11月15日(火)!

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●イベント情報
2022.11.23(水・祝)
GREEN SPRINGにて
「三上鰹節店さんの鰹節削りデモ」
立川で削りたてのかつお節を量り売りで販売する、三上鰹節店さんが来場。その場でかんなを使って鰹節を削っていただきます。運が良ければ、鰹節を削る体験もできるかも?
https://fermentation-tourism.tokyo/

三上鰹節店
立川市曙町2-8-30
9:00~19:00、月曜休
042-522-3259

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